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2019年09月04日

コラム/最適物流の科学㉒

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第二十に回となる今回は、「海運の安全安心神話を検証する」というテーマでお話しいたします。

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「大手海運企業破綻にみる正しい処方せん」

 

船会社とフォワーダーのいずれに委託しても、万が一の場合の補償に違いはありませんが、過去にはこれが大きな違いとなって現れたケースがあります。それは、二〇一六年八月に起きた韓国の大手海運会社、韓進海運の経営破綻です。コンテナ船の運航船腹量で世界のトップ一〇に入っていた同社の破綻は関係者に衝撃を与えただけでなく、業界に大きな混乱を引き起こしました。同社が裁判所に法定管理(会社更生法に相当)を申請した時点で、同社の船舶数十隻(同年九月六日時点で六八隻)が貨物を積んで世界各地を航行中でした。ところが、このニュースが各地へ伝わると、荷揚げ先となる港は現金での入港料支払いを要求したのです。これは事実上の入港拒否でした。

すでに入港した船舶についても、荷役の現金払いを要求されるなど、韓進海運が請け負っていた貨物の動きは完全にストップしてしまいました。日本近海でも、横浜港や名古屋港から入港を拒否された船舶が沖待ちを強いられる状態になりました。

荷主らにとって、これはまったく想定外の出来事でした。韓進海運の経営状態が良くないという事実はすでに広く知られていましたが、実際のところ、赤字経営に苦しんでいたのは韓進海運に限ったことではありません。

現在も多くの船会社が経営的に厳しい状況にあります。破綻の可能性があったとはいえ、貨物が途中で動かなくなる事態までは予測できませんでした。韓進海運の船に貨物を載せていた荷主は、その後の対応を迫られました。

この時、荷主がフォワーダーを通して韓進海運の船に貨物を載せていたケースでは、その対応はフォワーダーが行ないました。フォワーダーは自社のネットワークを駆使し、代替船を探して貨物を移し替え、目的地へと送りました。当然のことではありますが、フォワーダーは委託を受けた側の責任において、荷主に費用負担を求めることなく、最後まで輸送責任を全うしたのです。

当社も、その当時、ある工作機械メーカーの貨物を韓進海運の船を使って運んでいました。日本からインドに向けての輸送途中のタイミングで破綻となったため、当該貨物は韓国の釜山(プサン)港で輸送が打ち切られてしまったのです。

そこで当社は急遽、釜山から目的地のインド・ナバシェバ (Nhava Sheva)を結ぶレスキュー船を手配しました。この時は追加費用が一〇〇万円ほどかかりましたが、フォワーダーとしての輸送責任がありますので、費用はすべて当社が負担しました。レスキュープランによって約一カ月遅れの納品となりましたが、幸い貨物にダメージはなく、遅延以上のトラブルはありませんでした。

一方、韓進海運と直接契約していた荷主は、自らこれを行なわねばならなくなりました。別の船会社を探し、あらためてそこへ貨物を委託するのです。しかし、荷主が何社もの船会社に問い合わせをかけ、都合に見合った船を見つけるのは容易ではありません。結果として、多くの荷主がフォワーダーを頼りました。

今回の出来事においては、結果として韓進海運と直接契約した荷主よりもフォワーダーを利用した荷主の方が、その後の手間を省くという点で大きなメリットを享受できました。こうしたケースは極めて稀ではありますが、フォワーダーを通したことがある種のリスクヘッジに繫がったというのは事実です。

 

 

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つづく。

次回は、「フォワーダーの優位性は、国際複合一貫輸送でより鮮明に」というテーマでお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年08月28日

コラム/最適物流の科学㉑

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第二十一回となる今回は、「海運の安全安心神話を検証する」というテーマでお話しいたします。

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「事故やトラブルの時、対応はどう違う」

 

多くの荷主がフォワーダーへ委託を検討する際に心配されるのが「万が一のとき、ちゃんと対応してくれるのだろうか?」という点です。

事故やトラブルがあったとき、規模の小さい企業では十分な対応ができない、補償が不十分といった印象を抱く人は少なくありません。ただ、この点に関しては、船会社とフォワーダーの間に全く差がないというのが事実です。

 

船会社もフォワーダーも、貨物の輸送を請け負う際にはB/L(船荷証券)を発行しますが、その裏面約款には、事故などが起こった際の補償内容が記載されています。裏面約款は各社で作成するものですが、基本的にB/L条約と国際海上物品運送法に準拠した補償内容に基づくと記しています。つまり船会社もフォワーダーも、内容はほとんど同じなのです。

 

B/L条約〝ヘーグ・ヴィスビー・ルール(The Hague – Visby Rules)〟とは、「船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約」を指します。これは、一九二四年にB/Lに関する国際条約として成立したヘーグ・ルールの改正議定書として、一九六八年に制定されたものです。

日本は一九九二年にこの議定書に署名し、同年に批准しました。現在、国内法として定められている国際海上物品運送法も、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに則ったものとなっています。

 

このルールにおいて貨物に対する責任限度額は、一梱包当たり六六六・六七SDRまたは貨物重量一㎏当たり二SDRのいずれか高い方が適用されると定められています。SDRはSpecial Drawing Rightsの略で、国際通貨基金(IMF)からの特別引出権を指します。これは世界共通の通貨単位で、毎年変動しています。一SDRは二〇一七年一月の時点で一五五・九六七四円。

 

つまり、これに当てはめると、一梱包当たり約一〇万四〇〇〇円ということになります。船会社であろうとフォワーダーであろうと、貨物が損害を被った場合に受けられる補償は、物品の価値にかかわらず一梱包につき一〇万円程度だということです。もちろん会社の経営規模も関係ありません。大手の船会社やフォワーダーだから補償が手厚いということもないのです。

約款に書かれている内容のすべてに目を通す方は少ないかもしれませんが、貨物の輸送を依頼する際は、こうした事実を頭に入れておいた方がよいでしょう。

 

 

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つづく。

次回は、「大手海運企業破綻にみる正しい処方せん」というテーマでお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年06月12日

コラム/最適物流の科学⑳

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第二十回となる今回は、「海運の安全安心神話を検証する」というテーマでお話しいたします。

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「荷主の立場で勧めるのなら船会社?フォワーダー?」

 

フォワーダーが海上貨物の輸送を請け負っているとはいえ、実際のところ、多くの荷主は船会社との直接契約を望みます。その理由は、やはり船会社に対する安心感・信頼感にあります。

 

フォワーダーと比較すると、一般的に船会社は企業の規模が大きく、長い歴史を持ち、高い知名度があるというポイントがその根拠として挙げられます。船という大きな資産を持っていることも安心感・信頼感に繫がっているといえるでしょう。

 

それに対して、規模が小さく、歴史も知名度も大きな資産もない中小フォワーダーは明らかに見劣りします。加えて、船会社の方が情報収集力は高く、高度な業務システムを持っており、優秀な人材がたくさんいるというイメージを持たれることもあります。これもあながち間違いではないでしょう。ただ、こうした事実が本当の意味での安心・信頼に通じているとは限りません。

 

以下、あくまでも一般論とお断りした上で、前述の事実が安心感・信頼感にはならない理由を述べてみます。

 

まず、大企業だから絶対に安心と考えるのは一概に正しいとはいえません。後で述べる大手海運会社の韓進(ハンジン)海運の破綻がその象徴的な例ですが、他の業界でも突如、大企業が破綻に陥るケースは特に珍しい出来事ではないのは周知の事実です。

 

長い歴史があることも、企業の良し悪しを判断する基準とするには不十分です。時代を乗り越え経営を維持してきたという事実は信頼度を測る基準の一つにはなりますが、必ずしも必要な要素ではありません。

 

逆に歴史にあぐらをかくことで、経営が硬直化してしまう可能性もあるでしょう。積年により蓄積した経験や情報もやがて古くなります。過去の遺産に頼ることが、場合によっては変化への対応を妨げる足かせになりかねないともいえます。

 

知名度があるということは、その裏付けとして実績を持っている場合もありますが、必ずしもそうではありません。知名度に基づくイメージが、企業の実態と異なる場合もあるでしょう。

 

船という資産を有することは、それ自体が企業の力を示す基準になります。ただ、この大きな資産を有することはリスクになる場合もあります。船会社は、自社船にできるだけ多くの貨物を載せて運航させることが常に前提となるため、場合によっては荷主にとって最適なサービスを提供できない可能性も出てくるからです。

 

情報収集力や業務システムについては、大企業の方が秀でているのは確かでしょう。とはいえ、IT技

術やネットワークの拡充によって、中小企業であっても必要な情報を入手したり業務システムを構築したりする体制づくりは十分に可能です。

 

また企業の規模にかかわらず、いくら優れた情報やシステムが手元にあっても、それを効果的に運用できなければ意味はありません。

 

大手船会社に優秀な人材がいるのも事実です。しかし、必ずしもすべての現場に優秀な人材が配置されているとは限りません。さらに企業の規模が大きくなると社内の分業化も進み、そのため担当者が請け負っている業務の全体像を組織内で把握できていないケースもしばしば起こるようです。

 

ここまで船会社に対する一般的なイメージに疑問を呈すべく、あえて否定的な面を強調しました。これによって、フォワーダーの方が船会社よりも優れていると主張しているわけではありません。フォワーダーにも否定的に捉えられる側面はあります。ただ、船会社にせよフォワーダーにせよ、その内実を知らなければ信頼するに足るかどうかを見極められないことは確かです。

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つづく。

次回は、「事故やトラブルのとき、対応はどう違う」というテーマでお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年06月05日

コラム/最適物流の科学⑲

最適物流の科学

 

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海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

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第十九回となる今回は、「フォワーダーと船会社はパートナー」というテーマでお話しいたします。

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「フォワーダーと船会社はパートナー」

 

フォワーダーは船を所有していません。対して、船会社は船を持っています。当然ながら、フォワーダーが貨物の輸送を請け負った場合、船会社に輸送を委託します。見方によっては、フォワーダーは船会社にお願いをして、スペースを分けてもらっていると思われる方もいるでしょう。企業の規模から考えても、船会社に比べてフォワーダーが小規模なのは事実です。しかし、これが船会社とフォワーダーの間に明確な上下関係があることを意味するわけではありません。

 

日本にまだ外航海運を担う商船が少なかった時代、荷主にとって船のスペース確保は悩みの種でした。荷主は貨物を海運輸送するため、限られた中からスペースを確保しようと、船会社に対して営業活動を行なっていました。船会社の立場がもっと強かった時代です。

 

しかし時代が進むにつれて商船の数が増え、かつ船体も大型化していき、その結果、貨物を積むスペースにも余裕が出てきました。輸送力が過剰になると荷主と船会社の立場は逆転します。今度は、船会社側にスペースを埋めるための営業活動が必要になってきます。

 

ビジネス上、船のスペースは在庫にすることができません。貨物が少なくガラガラの状態で出航すれば、それはそのまま損失となります。運賃を安くしてでもスペースを埋めようという力が働き、これが続くと船会社の経営が圧迫されていきます。

 

一方、船というハードを持たないフォワーダーは、船を所有するが故のリスクはありません。荷主からの依頼がなければ売上は減りますが、それがそのまま損失にはならないのです。もちろん、リスクはなくても、会社の売上を伸ばすにはハードに代わる卓越したソフトを持つ必要があります。それがなければ荷主に利用してもらえないのです。まず、フォワーダーは複数の船会社と関係を構築し、確保できるスペースをなるべく多く用意する必要があります。船がない代わりに、船会社との幅広いネットワークは欠かせません。これが荷主に多様なルートを提供できる強みとなります。自社船のスペースの範囲でのみ営業する船会社との大きな違いがここにあります。

 

他にも、安い価格を提示できる点も重要です。無闇に安くすれば当然利益を失いますが、多くの荷主が安い価格を望んでいることは事実です。スピード感も必要です。荷主の要望にいかに素早く対応するか、そうした機動力も求められます。早く正確な情報を入手し、的確に対応することも重要です。

これら以外にもポイントは多々ありますが、そうしたソフトをいかに高めていけるかはフォワーダーが生き残る上で必要不可欠な条件となるのです。

 

船会社にとってフォワーダーは、空いたスペースを埋める上で重要な役割を果たすパートナーとなります。フォワーダーは、各船会社との関係のみならず、荷主との関係においても船会社以上に広大なネットワークを構築しています。船会社が単独で直接荷主に営業をかけても限界がありますが、フォワーダーを使えばスペースが埋まる可能性が高まります。いわば営業のアウトソーシングです。

 

ハードに強みを持つ船会社とソフトに強みを持つフォワーダーがうまく協業することが、今後の海運業界の行末を占うカギとなってくるでしょう。これについては最終章にて詳しくご紹介させていただきます。

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つづく。

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ジャパントラスト株式会社 

 

2019年05月29日

コラム/最適物流の科学⑱

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第十八回となる今回は、「船のない船会社だからこそできることがある」というテーマでお話しいたします。

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「ハードを持たない強みと弱みを比べると」

 

ここまでフォワーダーの特徴や業務内容について説明してきましたが、フォワーダーのようにハードを所有せずにソフトだけを活用して運営する企業は海運業界以外にもたくさんあります。

 

そうしたハードを持たない会社は、自前のハードを有する会社とは、業界内でどういった関係性を構築しているのでしょうか。ここでは視野を広げるために、海運以外のさまざまな業界に目を転じて考察してみたいと思います。

 

「ファブレス企業」という存在をご存知でしょうか。「ファブ(fab)」はファブリケーションファクトリー(Fabrication Facility:工場)の略で、これが「レス(less)」とはつまり、〝ない〟ということです。そうした工場というハードを持たない企業が製造業を営むビジネスモデルが今、注目されています。よく知られている企業としては、ゲームメーカーの任天堂、飲料メーカーのダイドードリンコ、自動制御機器などの製造販売を行なうキーエンスなどが挙げられます。

 

海外では、IT企業のAppleやスポーツ用品メーカーのナイキなどがファブレス企業として有名です。こうした企業は、商品の製造を他の企業へアウトソーシングして、自社は商品の企画・開発や設計に経営資源を集中させています。

 

一方、ファブレス企業から委託を受けて商品を製造する企業を受託製造企業といいます。その中で、主に半導体製造を行なう企業は「ファウンドリ(foundry)企業」、電子機器を製造する企業は「EMS(Electronics Manufacturing Service)」とも呼ばれます。受託製造企業は数多く存在しますが、基本的に裏方の立場にあるため、一般によく知られる企業は多くありません。

 

その中で台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は2016年に、経営再建中のシャープを買収したニュースで注目を集めました。この企業は先に挙げたAppleや任天堂などから多くの商品製造を受託するなど、世界の電子機器製造の分野では、もはや欠かせない存在となっています。2016年の連結売上高は日本円で約15兆7,800億円にのぼります。日本企業でこれを上回っているのはトヨタ自動車だけです。

鴻海精密工業の事例からもわかるように、受託製造企業は従来の中小企業を主とした「下請け企業」に対するイメージで捉えることはできません。建て前としてのパートナーではなく、真のパートナーとして共存共栄を目指そうとしているのが、ファブレス企業と受託製造企業の関係だといえるでしょう。

 

ファブレス企業と受託製造企業は、それぞれがソフトとハードに特化することによって、双方に大きなメリットをもたらしています。ファブレス企業にとっては、小資本で市場に参入できるとともに、資金や人材を企画・開発および宣伝・販売に注力し、競争力を高める効果が得られます。

 

そして急速に変化し続ける市場の動きに、柔軟かつスピーディに対応できる点は大きなアドバンテージといえるでしょう。一方の受託製造企業は、安定的に受注を確保できると同時に複数の企業からの製造を請け負うことで、工場稼働率を高めるメリットが享受できます。

 

またハードに特化して技術力向上に専念でき、ひいては発注企業の囲い込みに繫げることもできます。

ただ双方にデメリットもあります。ファブレス企業にとっては、企画・開発に関する情報漏洩のリスクが生じ、製造ノウハウを蓄積できないという点が挙げられます。受託製造企業では、自社ブランドを構築できず、エンドユーザーとの接点も持てないといったことが課題となるでしょう。

 

マイナス面もあるとはいえ、現在、メーカーの水平分業化が進んでいるのは事実です。これは刻々と変化する市場の動向に企業がいかに迅速に対応するかが、今日ではより重要になっているという事実の証左ともいえるでしょう。

 

これは製造業に限った話ではありません。海運業界を取り巻く環境も、それまでにないスピードで変化を続け、その対応策として分業化は、キーポイントの一つと考えられます。フォワーダーと船会社の関係においても、そうした視点が重要になってきているといえるでしょう。

 

もちろん、その両社の関係を製造業におけるファブレス企業と受託製造企業の関係にそのまま置き換えることはできませんが、海運業界の未来を考える上で、両者のあり方の再検討が重要である点は間違いありません。

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つづく。

次回は、「フォワーダーと船会社はパートナー」というテーマでお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年05月22日

コラム/最適物流の科学⑰

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

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第十七回となる今回は、船会社に代わって船荷証券(B/L)を発行することについてお話しいたします。

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「船会社に代わって船荷証券(B/L)を発行」

 

船荷証券とは、船積書類の一種で、一般にはB/L(ビーエル)と呼ばれます。Bill of Ladingの略称で、この書類の発行に際してもフォワーダーが重要な役割を担います。B/Lは、貨物の輸出入に際して非常に重要な書類でもありますので、その内容について具体的に紹介しておきましょう。

 

まず、この書類は三つの性質を持っています。

 

1.貨物受領証:船会社が荷主から貨物を受け取り、船積みすることを約束した証書。

2.運送契約証:船会社が荷主との間で、貨物を目的地まで届ける契約を交わしたことを示す証書。

3.貨物引換証:荷揚港でB/Lと引き換えに貨物が引き渡されることを約束した証書。

 

有価証券としての性質も備えているのがB/Lで、裏書きによって第三者に転売することもできます。

B/Lは、荷主が船会社に発行を依頼しますが、フォワーダーはこの役割を代行します。その際に必要となるのが、先に記したS/Iやインボイスといった書類です。そこに記載された情報を船会社に提示し、船会社は船積みが完了するとその情報に基づいてB/Lを発行するのです。

 

フォワーダーは荷主と契約を交わした際に、運送人の立場で自社のB/Lを発行します。一方で船会社との関係において、フォワーダーは荷主の立場で船会社からB/Lの発行を受けます。フォワーダーの発行するB/LをハウスB/L(House B/L)、船会社が発行するB/LをマスターB/L(Master B/L)と呼び、両者を区別します。貨物の引取りに際しては、フォワーダーは船会社にマスターB/Lを、受取人はフォワーダーにハウスB/Lをそれぞれ呈示することになります。

 

なおB/Lは通常、紛失した場合に備えて正本が三通発行されます。そのうちの一通が回収された時点で、他の正本は無効となります。

 

海上輸送に際して、B/Lを使わずにシー・ウェイビル(Sea Waybill)という書類を使って取引が行なわれる場合があります。これは、日本語では海上運送状といい、先に挙げたB/Lの性質のうち貨物受領証と運送契約証としての役割を持つものです。貨物としての性質を持たないので、貨物を引き取る際に呈示する必要はありません。貨物の到着を受取人に通知するために届けられる貨物到着案内書(Arrival Notice)に署名し、これが貨物の引換証になります。当然、有価証券としての性質は持ちません。

 

シー・ウェイビルであれば、貨物の到着よりもB/L正本の到着が遅れて引取りができないといったトラブルがないので、迅速な取引が求められる場合に利用されます。また、B/L紛失のリスクを回避するためにも有効です。

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つづく。

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2019年05月15日

コラム/最適物流の科学⑯

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第十六回となる今回は、海上輸送では複雑な書類作成業務ついてお話しいたします。↓

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「海上輸送では複雑な書類作成業務が待っている」

 

次に、フォワーダーが海上輸送に際して具体的にどのような業務に携わるのかを見てみましょう。細かい業務を含めると多岐にわたりますが、輸出に際して行なう主な業務は次の通りです。

 

  • 海上運賃の見積書の作成・提示

荷主に貨物のボリューム(FCL・LCLの区別)、コンテナの種類、搬入場所などを確認し、船積みの運賃、および港到着後の配送費用、梱包作業、通関などの必要経費をあわせて見積りします。

 

  • 荷主からのブッキング(船腹予約)の受付

荷主との間でスケジュールなどの確認をし、ブッキングを受け付けます。

 

  • 船会社へのブッキング(船腹予約)・スペースの確保

荷主の要望に基づき、船の出港日時・到着日を調べながら最適なルートを選び、自らが荷主となって船会社にブッキングを行います。

 

  • 船積書類の作成

貨物の出荷にあたって、下記の三種類の書類を作成します。

 

・S/I(Shipping Instruction:船積指図書):輸出者がB/L(Bill of Lading:船荷証券)に記載する内容を運送人に伝えるための書類。荷送人名(Shipper)、荷受人名(Consignee)、連絡先(Notify Party)、本船名、船積港、陸揚港、出港予定日、シッピングマーク、品名、数量、支払い方法、B/Lの発行地などが記載されます。

 

・インボイス(Invoice:送り状):発送する貨物の中身を説明する書類。輸出者名、輸入者名、本船名、出港予定日、船積港、陸揚港、シッピングマーク、品名、数量、単価、金額、支払方法などが記載されます。

 

・パッキングリスト(Packing List:梱包明細書):貨物の梱包明細。輸出者名、輸入者名、品名、出港予定日、シッピングマーク、貨物の梱包形態などが記載されます。

 

  • 現地代理店への作業指示

荷渡しを担当する現地代理店へ指示を出すとともに、港に到着した後で内陸輸送が必要な場合は事前にその手配を依頼しておきます。

 

  • 小口混載貨物(LCL)のコンテナ詰め

LCLの場合はコンテナ詰めを行なった後、コンテナを船会社指定のコンテナヤードへ運びます。

 

  • 代金の請求・回収および支払い

決められた決済方法に基づき、荷主に対する代金の請求・回収を行ない、船会社等に支払いを行ないます。

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つづく。

次回は、船会社に代わって船荷証券(B/L)を発行することについてお話しいたします。

 

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ジャパントラスト株式会社 

 

2019年05月08日

コラム/最適物流の科学⑮

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

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第十五回となる今回は、海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)ついての続きをお話しいたします。

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「海外旅行することをイメージして考える」

 

ここまで、フォワーダー(NVOCC)について説明してきましたが、少しわかりづらいと思われた方もいるかもしれません。ここでは、フォワーダーをより深く理解していただくために、「貨物の旅行代理店」という表現を用いて説明してみたいと思います。外国へ貨物を送る機会にはなじみがなくても、自らが海外旅行へ出掛けるケースであれば比較的イメージしやすいのではないでしょうか。

 

旅行代理店は、お客様を運ぶ交通機関などの手配をするとともに、パスポートやビザなどの申請や旅行保険の手続きを代行します。旅行に関する煩雑な手続きはすべて旅行代理店が代行してくれるので、旅行者は安心して目的地へ向かうことができます。フォワーダーはこの「旅行者」を「貨物」に置き換えたものということになります。もちろんこの場合、輸送手段は船になります。

 

旅行代理店は、顧客が自社サービスを選択してくれるように営業努力をしています。同時に旅行者が利用する交通機関あるいは宿泊施設に対して、良い条件でかつ安く利用できるよう営業活動をしているのです。

 

フォワーダーも同様に、貨物を依頼する荷主に営業活動をしながら、船会社に対してスペースを安く提供してもらえるよう仕入交渉を重ねます。

 

旅行代理店を利用したことがある人ならおわかりかと思いますが、代理店を通したからといって、その手数料で費用が高額になるということはまずありません。自分ですべての手続きを行なった場合に比べ、安くなるのが通例です。実際、旅行者自身で交通機関や宿泊施設に連絡を取り、値下げ交渉をするのは容易ではありません。そうした交渉を旅行代理店が代行し、旅行者は格安な価格で旅を楽しむことができるのです。フォワーダーも同じです。フォワーダーの営業活動については後の章であらためて触れますが、アウトソーシングだからその分だけ費用がかさむというイメージは誤解です。

 

また旅行代理店は目的地へ向かうさまざまな手段・ルートの中から、経済性や効率性を考慮しながら最適なものを提示してくれます。フォワーダーも同様に貨物を目的地へ届けるため、荷主の要望に応じてより最適な手段・ルートを選別し提案します。これが「最適物流」です。航路改編、スペース、運賃相場など変化の激しい海運業界において荷主自らが行なうのは難しい事柄をフォワーダーが代行するという意味で、その利用価値は高いといえるでしょう。

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つづく。

 

次回は、海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)ついての続きをお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年04月24日

コラム/最適物流の科学⑭

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第十四回となる今回は、海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)ついてお話しいたします。

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「海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)」

 

本書では、NVOCCを「フォワーダー」という表記で統一していますが、NVOCCという用語について、ここで詳しく説明をしておきましょう。

 

NVOCCとは、第一章で見た通り、フォワーダーの中で海上輸送を得意とする事業者を指します。荷主から貨物を預かり、船舶その他の輸送手段を持つ事業者を利用して目的地へ届ける仕事がNVOCCの基本的な役目になります。NVOCCは、運送の過程で派生するさまざまな業務を含めて一括で請け負います。特に今日、重要性が増している国際複合一貫輸送において、大きな役割を果たします。

NVOCCという呼称はアメリカ生まれで、1984年の米国海事法により外航利用運送事業者を指す名称として定義されました。その改正法として制定された1998年の米国海運改革法では、外航利用運送事業者(NVOCC)と外航運航取次業者(オーシャン・フレイト・フォワーダー:Ocean Freight Forwarder)の総称として、海上運送仲介業者(OTI:Ocean Transportation Intermediary)も呼称として定義されています。

 

日本において、NVOCCは貨物利用運送事業法の規制を受けます。この法律では、まず貨物運送を、自ら輸送手段(船舶、航空、鉄道、貨物自動車)を持ち実際に貨物を運送する「実運送」と、運送事業者の行なう運送を利用して貨物の運送を行なう「利用運送」の二つに分類しています(第二条)。このうちNVOCCは、後者の利用運送事業を行なう利用運送事業者に該当します。また、この利用運送事業者は、実運送事業者に対しては荷主になります。

 

さらに貨物利用運送事業法では、利用運送事業をその形態によって2つに分類しています。1つ目が第一種貨物利用運送事業です。これは、外航海運においては船舶による輸送のみが対象となります。つまり、ポート・ツー・ポート(Port to Port:港から港)限定ということです。海上輸送以外のトラックや鉄道を使った輸送までを一貫して請け負うことはできません。なお、この事業は登録制となっており、国土交通大臣の行なう登録を受ければ開業することができます。

 

もう1つが第二種貨物利用運送事業です。これは、海上輸送とこれに先行・後続する輸送までが含まれます。つまり、トラックなどを使った集荷・配送を組み合わせ、ドア・ツー・ドアの一貫輸送サービスが提供できます。こちらは許可制で、事業を行なうには国土交通大臣に対して申請手続きを行ない、許可を受ける必要があります。

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つづく。

次回は、海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)ついての続きをお話しいたします。

 

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投稿者

ジャパントラスト株式会社 

 

2019年04月17日

コラム/最適物流の科学⑬

最適物流の科学

 

弊社社長の菅が、2017年12月に『最適物流の科学―舞台は36106万平方km

海を駆け巡る「眠らない仕事」』という書籍を出版しました。

 

そこで、本ブログでも、その書籍から抜粋した内容を

毎週1話ずつ、ご紹介していきたいと思います。

 

第十三回となる今回は、荷物の旅路を手配する「貨物の旅行代理店」についてお話しいたします。

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「船を持たない海運会社・フォワーダー(NVOCC)とは」

 

物流業界でアウトソーシング化の流れが注目される中、その主体となっているのがフォワーダーです。第一章で述べたように、フォワーダー(フレイト・フォワーダー)とは、荷主から貨物を預かり、他の事業者の運送手段を利用して運送する貨物利用運送事業者を指します。そのうち、国際輸送を取り扱う事業者をフォワーダーと呼ぶのが一般的です。

 

その具体的な業務については、FIATA(世界フォワーダー協会)の「フレイト・フォワーダー業務に関するモデル約款」第二条一項で次のように定義されています。

 

「フレイト・フォワーダー業務とは、物品の運送、混載、保管、荷役、包装、配送及びこれらに関する付帯業務及び助言業務の全てをいう。同サービスには、税関手続や納税手続のための申告をすること、物品の付保、物品に関連しての支払の取り立て、書類の入手業務を含むが、これらに限定されるものではない」(伊藤仁一訳「フレイト・フォワーダーとその役割」『国際複合輸送業務の手引』(第八版)2ページ)。

 

この説明からもわかるように、フォワーダーの業務範囲は多岐にわたります。荷主の側からすると、輸送や通関といった業務をすべてワンストップでアウトソーシングできる頼りになる存在ということになります。

 

フォワーダーはヨーロッパが発祥とされています。その歴史は古く、中世後期には、すでに交易の場で活躍していたといわれています。多くの国が隣接するヨーロッパにおいて、国境での通関には複雑な手続きが必要とされ、国境をまたぐ交易では通関や輸送に精通したフォワーダーのような存在が欠かせなかったのです。

 

時代と共にフォワーダーの存在感は大きくなっていきましたが、1967年にEC(ヨーロッパ共同体)が発足し、域内での通関が廃止されるとその役割は縮小を余儀なくされます。そうした中で、フォワーダーは輸送の関連業務を請け負う形で事業の幅を広げ、利用運送業者として活躍の場を広げていきました。

 

歴史的には、輸送や通関などの業務をアウトソーシングする必要性からフォワーダーが登場したわけですが、さらに時代を遡ると、海運業(船会社)も、業務のアウトソーシング化によって誕生したと見ることができます。

 

海上交易においてフェニキア人が活躍していた紀元前の昔、海運を専門とする事業者はまだ明確には存在しませんでした。そのため、当時は商人が交易に際して自ら船を所有する必要があったのです。あるいは、商人らが組合を結成して共同で船を所有することもありました。このように商人が船を持ち運航して、貿易を行なう形態をマーチャント・キャリア(Merchant Carrier)またはプライベート・キャリア(Private Carrier)と呼びます。

 

このスタイルは、イタリア商人が活躍した中世に至っても続いていました。その後、時代が進むにつれて、他社の貨物の海上輸送を専業とするコモン・キャリア(Common Carrier)またはパブリック・キャリア(Public Carrier)と呼ばれる業態が登場します。

 

そしてイギリスやドイツで海運会社が誕生し、産業革命に伴う海上貨物の増加によってこの業態が一般化していきました。そうした文脈において、船会社もフォワーダーも、広い意味でのアウトソーシング化という歴史の流れの中で登場したものだと位置づけられるのです。

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つづく。

次回は、海上輸送が得意なフォワーダー(NVOCC)ついてお話しいたします。

 

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ジャパントラスト株式会社 

 

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